引退の時......

来年で会社を閉じます。

うそでしょ……。

おいおい。まだ50代でしょ……。

理由は、

どうしようもないから……。

と言われても……、理由を聞けないよ。

怖くて……。

彼の仕事は順調。

その業界では、全国に名が知れ渡っている。

不器用で、

愚直で、

家族思い。

奥様が大好き。

一緒に出掛けるスーパーへの買い物。

デートを、何よりも大切にしていた。

2週間前に会ったときは、何も言っていなかった。

元気で、ビジネスを教えてくれた。

まわりを巻き込み、大好きで誇れる仕事を伝えてくれた。

その陰で、引退に追い込む何かが忍び寄っていたんだ。

それに気づけなかった。

もしかすると、その時から精神的に切羽詰まっていたのかもしれない。

そんな様子をまったく知らせないように、彼は役割をまっとうしていた。

まさに泰然自若。

立派な生きざま。

理由を聞いたよ。

仕事が順調なのに、なぜ……。

本人やご家族の病気が原因でないことを祈って。

すると、

近所がうるさいから。

仕事をしていると、近所からクレームが来るから。

そのことで、彼は10年以上前から悩んでいた。

彼、仕事大好きなんだよ。

彼のホームページを見れば、どれだけ仕事を愛しているのかが分かるよ。

だからこそ、気持ちよく仕事をさせてもらえないことに、

気力、胆力が底をついたんだろうな……。

その仕事を誰よりも愛し、

誰よりも一所懸命で、

誰よりも家族のために働き続けた彼を止めることなんてできないさ。

メッセージを送った。

「どんなご事情であれ、

　その年齢でリタイアされるのは本当に素晴らしいことです。

　成功者ですね。

　心よりお祝い申し上げます。

　より一層、 奥様との素敵な時間をお過ごしください。」