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未来は変えられない

未来は変えられない

投稿日:2025年12月24日 / 最終更新日:2025年12月24日

「未来を変えたい……」
「自分を変えたい……」
「人間関係に疲れた……」
「過去を整理したい……」
そんな思いに駆られたとき、彼の言葉が救いになるかもしれない。

「過去と他人は変えられないが、未来と自分は変えられる」――これは、カナダの精神科医エリック・バーンの有名な言葉。

しかし、現実はまったく違うのではないか。 もし未来が「変えられる」のだとしたら、それは「未来がすでに決まっている」という前提に立つことになる。そんな馬鹿なことが、あり得るはずがない。

私たちは独り言を発することもできれば、沈黙を守ることもできる。今、座っているとしたら、座り続けることも選べるし、歩きはじめることもできるだろう。 それさえもすべて「未来として決まっていたこと」なのだと言われれば、もはや反論のしようはない。しかし、もしそうだとすれば、「決まっている未来を変える」という行為さえも、最初から運命として決まっていたことになってしまう。

未来を変えることさえ、すでに未来として決まっていたのだとしたら、やはり、未来を変えることなどできないのではないか。

自分は変えられるのか

さて、エリック・バーンは「交流分析(Transactional Analysis, TA)」を創始した偉大な精神科医であり、凡夫の私が容易に太刀打ちできる存在ではない。 ただ、現実として言えるのは、未来とは「変える」ものではなく、自ら「創造する」ものだということだ。未来は、自分の思い通りに描くことができる。

そうして未来が「変えられるもの」ではないと気づいたとき、次に疑いたくなるのが「自分は変えられる」という言説だ。果たして、自分を変えることなどできるのだろうか。

近代的自我の考え方では、「私は私」「私は私のままでいい」という。では、その「私」を思っているのは、一体誰なのか。 そう問いかけても、結局「私」という言葉しか返ってこない。しかし、「私」が何かの代名詞である以上、それは何かを代名しているにすぎない。「私は私である」という主張は、代名するものが代名するものだと言っているだけで、その対象を明確に指し示してはいないのだ。

では、私は何を代名しているのか。

代名されるいろいろな私

昨日、家族で町中華へ出かけたときのことだ。隣の席に、三人組の女性たちがいた。

「旦那と喧嘩したら、言いたいことは全部言っちゃうの。でも大人だから、次の日は私から声をかけるわ」、すると別の一人が、「うちはね、喧嘩すると数日は口をきかないの。年を取ると、女のほうが強いからね」と応じる。賑やかな会話が弾んでいた。

彼女たちの語る「私」の正体は、いわば「愚痴」である。居心地は良さそうだったが、この「私」は変えられるものなのだろうか。

同じような光景は、仕事の愚痴が飛び交う居酒屋でも見かけられる。職場でストレスを感じながらも従順に振る舞う「私」がいる一方で、居酒屋では自由奔放に毒を吐く「私」もいる。 果たして、私は「従順な方」なのか。それとも「愚痴をこぼす方」なのか。

あるいは、仕事でお客様から感謝された場面を想像してほしい。ある人は、それを素直な喜びとして受け取る。 ある人は、当たり前のことをしたまでだと淡々と受け取る。 またある人は、嫌味ではないかと勘繰るかもしれない。では、「私」とは人格や性格のことなのだろうか。「私は私」の「私」とは、人格・性格という名の代名詞なのだろうか。そしてそれは、変えられるものなのだろうか。

「素直さ」にも「当たり前だと思うこと」にも「嫌味と受け取ること」にも、それぞれに二面性がある。 もし、この三つの受け取り方を、同じ人間が別の場面でそれぞれ経験しているのだとしたら、もはや「人格」や「性格」とは何を指して呼んでいるのだろうか。

どれを「自分」と指すのかさえ定まらないまま、どうやって「自分を変える」ことなどできるのだろう。 改めて考えてみると、「私は私のままでいい」という言葉も怪しくなってくる。怒り狂っている時の私も、そのままでいいはずがない。

夫や仕事の愚痴を言う私は、私でいいのか。だとしたら、私は「愚痴」そのものなのか。それとも「性格」なのか。あるいは場面によって姿を変える「柔軟性」のことなのか。

私とは、一体何なのだろう。 「変えられる未来」と「変えられる私」とは、一体何を指して言っているのだろうか。

そして、今これを考えているのは、本当に「私」なのだろうか。(笑)

著者プロフィール 椎名規夫(公認心理師)

一般財団法人日本コミュニケーショントレーナー協会 代表理事
経歴:社団法人取手青年会議所 1999年理事長

1961年生まれ。茨城県取手市出身。

「変われなければ心理学ではない!」をスローガンに、心理の国家資格『公認心理師』の知識を活かして、日本で唯一、科学的根拠のある心理学をベースにしたコミュニケーションスキル(コーチング、カウンセリング、メンタリング、セラピー、コミュニケーション能力、コミュニケーション心理学)を提供。

エビデンスベースド(科学的根拠のある)心理学とコミュニケーション能力こそが社会人、ストレス社会、人生100年時代に役立つスキルと確信してトレーニングを実施中。

  • 総務省 「コミュニケーションの基礎に関する研修」
  • 全国6万社が加盟する厚生労働省の労働基準局所管特別民間法人『中央労働災害防止協会』にてコミュニケーション技術力研修担当10年以上
  • 労働基準監督官(国家公務員)合同研修でメンタルトレーニング・コミュニケーション技術担当
  • 独立行政法人教職員支援機構にて全国の小・中、高等学校の教員向けコーチング講座担当など
椎名規夫トレーナー

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